
近年、AI(人工知能)という言葉がニュースやメディアでよく取り上げられるようになり、私たちの生活の中でも身近なものになっています。AIは、音声認識機能搭載のスマートフォンや自動運転車など、色々な場面で活用されており、さまざまなものをより便利で効率的にするために活用されています。
今後、さらにAIが発展した社会はどうなるのでしょうか?今後の見通しや生き抜くための対策などを、わかりやすく解説します。
目次
AIの歴史
AI(人工知能)という概念が明確に定義されたのは、1956年にアメリカの計算機学者ジョン・マッカーシーによります。彼が初めて「人間の脳に近い機能を持ったコンピュータープログラム」という言葉でAIを定義しました。
まずは、AIについて、どのようなものか確認してから、その歴史を見ていきましょう。
そもそもAIとは
【AIを構成する分類図】
AI(人工知能)とは、英語の「Artificial Intelligence」の略称で、人間の知能や認知能力を模倣した、機械やコンピュータの技術のことです。AIは、学習、推論、問題解決など人間の知的な活動のような作業を行うことが可能で、さまざまな分野で活用されています。
AIを構成する3つの柱として、
- 機械学習(マシンラーニング)
- ニューラルネットワーク
- 深層学習(ディープラーニング)
がありますが、ここでは内容を簡単に把握しておきましょう。
機械学習:経験から学ぶ賢いAI
機械学習(マシンラーニング)は、AIが経験から学習し、自分で判断できるようになる技術です。具体的には、
- 教師あり学習:コンピュータに入力データとそれに対応する正解ラベルを与えて学習させる
- 教師なし学習:正解ラベルを与えずにデータを解析し、パターンや構造を見つけ出すことを目的とする学習
- 強化学習:AIが環境とのやり取りを通じて学習を行い、報酬を最大化するような行動を学習する
といった方法を通じて、大量のデータを与えて学習することで、そこに潜む法則やパターンを見つけ出します。これにより、新たなデータに対する予測や判断を行うことができます。画像認証、スパムメール検知などが活用例です。
ニューラルネットワーク:脳の仕組みを模倣
ニューラルネットワークは、人間の脳の神経回路を模倣した構造を持つ機械学習の一種です。複数のニューロン(ノード)が層状に結合され、信号の伝達や処理を行います。
ニューラルネットワークは、入力層、中間層(隠れ層)、出力層から構成され、入力データを受け取り、処理を行って結果を出力します。また、学習データを使って重みやバイアスを調整し、入力データと正解データの間の誤差を最小化するように学習します。
この学習過程を通じて、ニューラルネットワークはパターンや関係性を抽出し、未知のデータに対しても適切な予測や分類を行うことが可能となります。顔認識、音声認識などが活用例です。
深層学習:AIの飛躍的進化を支える技術
【深層学習の仕組み】
深層学習(ディープラーニング)は、多層のニューラルネットワークを用いて高度な学習を行う機械学習の一種です。通常のニューラルネットワークよりも深い(多くの層を持つ)構造を持ち、膨大なデータから特徴を自動的に学習することが可能です。
ディープラーニングは、階層的な特徴抽出と表現学習によって、複雑なパターンや関係性を抽出し、高度な認識や予測を行うことができます。画像や音声、テキストなどのデータを扱うさまざまなタスクに応用され、高い精度と汎用性を持つことが特徴です。
自動運転、医療診断、チャットボットなどに利用されています。
【関連記事】ディープラーニングとは?仕組みやメリット・デメリットと実用例の紹介
近年、機械学習、ニューラルネットワーク、ディープラーニングの3つの技術が組み合わさることで、AIは驚異的な進化を遂げています。
AIの目的は、人間の能力を拡張し、より効率的かつ創造的な活動を支援することです。続いてはAIの歴史を、過去に起きた「人工知能ブーム」から見ていきましょう。
【関連記事】ChatAIとは?仕組みやメリット・デメリット、種類、今後の課題も
【人工知能(AI)の歴史】
第一次人工知能ブーム
1950年代から1960年代にかけて、AIの研究が本格化し、第一次人工知能ブームが訪れました。この時期には、初期のAIプログラミング言語や推論システムが開発され、AIの基礎が築かれました。しかし、当時のコンピュータの性能やデータ量の制約により、実用的なAIの実現には至りませんでした。
第二次人工知能ブーム
1980年代から1990年代にかけて、第二次人工知能ブームが訪れ、AIの研究が再び盛んになりました。専門家システムや専用ハードウェアの開発が進み、AIの応用範囲が拡大しました。しかし、一部の過大な期待や技術的な限界により、再びAIの発展は停滞しました。
第三次人工知能ブーム
2010年代以降、第三次人工知能ブームが到来し、AI技術の急速な発展が見られます。深層学習や機械学習の進化により、画像認識や自然言語処理などの分野で驚異的な成果が得られるようになりました。AIの応用範囲はますます広がり、様々な産業や社会分野で活用されています。
現在、AI研究はさらに発展を続けており、AIはますます私たちの生活に身近なものになりつつあります。今後、AIはどのような進化を遂げ、私たちの生活にどのような影響を与えるのか、世界中で期待が高まっています。*1)
AIの現状
AIは現代のテクノロジーの中心的存在となり、私たちの生活や仕事に革新をもたらしています。では、AIが具体的に何ができるのか、どのような場面で活躍しているのかを見ていきましょう。
AIが得意なこと
AIは、人間よりも高速かつ正確に情報を処理し、膨大な量のデータを分析することができます。また、人間にはない学習能力を持ち、経験を積むことで精度を向上させられます。
【社会的課題と人工知能への期待】
以下に「AIが得意なこと」について、内容を表形式でわかりやすくまとめました。
分野 | 説明 | 活用例 |
---|---|---|
画像認識・音声認識 | 人間の目や耳よりも高精度で画像や音声を認識できる技術。 | 顔認証システム、音声翻訳アプリ |
自然言語処理 | 人間の言葉を理解し、意味を処理して応答や解析ができる技術。 | チャットボット、音声アシスタント |
機械学習による診断・予測 | 膨大なデータからパターンを学び、将来の状態や結果を予測・判断できる。 | 医療診断支援、株価・需要の予測 |
ロボット制御 | ロボットの動作をAIが判断し、複雑な動きを実現する制御技術。 | 手術支援ロボット、自動運転車 |
AIが活躍する場面
現在AIは、社会のさまざまな分野で活躍しており、私たちの生活を支えています。分野別に具体的な例を見ていきましょう。
分野 | 主な活用内容 | 具体例・機能 |
---|---|---|
医療分野 | 医療診断、治療計画、創薬支援などにAIを活用。 | CT画像から病変を検出、最適な治療法を提案 |
金融分野 | 不正検知、リスク管理、投資判断などにAIを活用。 | 不正取引の検出、相場分析による投資支援 |
製造業 | 品質検査、生産ラインの自動化、異常検知、ロボット制御などに活用。 | 不良品の検出、生産設備の監視、自動制御ロボット |
流通業 | 需要予測、在庫管理、商品陳列、顧客分析などにAIを活用。 | 過去データに基づく在庫調整、売れ筋商品の配置最適化 |
サービス業 | 顧客対応、チャットボット、音声翻訳などにAIを活用。 | 自動応答システム、多言語対応の音声翻訳ツール |
2025年時点でのAIの市場規模
ここまで見てきたように、AIは急速に進化し、私たちの生活や社会に深く浸透してきています。では、2024年時点での国内外のAI市場の規模はどのようになっているのでしょうか。
ここでは、最新の調査データをもとに、AIの市場動向を確認していきます。
生成AIの市場規模は急速に拡大中
メタバース総研※の調査によると、2024年時点での世界の生成AI※の市場規模は約3.5兆円に達すると予測されています。一方、国内市場は約7,000億円程度と見られています。
特に、AIを活用したコンテンツ制作やカスタマーサポートなどのサービス分野で大きな伸びが期待されています。
AIパソコンの需要が高まり
2027年には、AIパソコンが全パソコン出荷台数の6割近くを占めると予想されています。AIの高度化とともに、AIチップの進化が目覚ましく、低価格で高性能なAIパソコンが普及しつつあります。個人ユーザーからエンタープライズまで、AIパソコンの需要が高まっているのが現状です。
国内外で競争が激化
日本企業もAIの研究開発に積極的に取り組んでおり、KDDIなどの大手企業が4年間で1,000億円もの投資を行う計画です。一方で、米国やEUなどでも、AIの標準化を見据えた競争が熾烈化しています。日本発の「AIの標準」※を世界に広めるべく、産官学一丸となった取り組みが重要視されています。
このように、AIを活用したサービスやデバイスの需要が高まる中、国内外では熾烈な競争が繰り広げられています。AIの恩恵を最大限に享受するためには、企業や個人が先端技術の動向に注目し、柔軟に対応していくことが大切です。*3)
人間と人工知能と創造性・今後の展望
【AIの今後の展望】
AI技術は急速に進化し、私たちの暮らしや産業のあらゆる場面に深く浸透しつつあります。今後はさらなる発展が見込まれ、社会全体の仕組みや価値観に大きな変化をもたらすことが予想されています。
特に注目されるのが、人間とAIの協働によって創造性がどう変化し、未来の社会がどう進化していくかという点です。
人とAIの協働による生産性の飛躍
AIは、人間よりも高速かつ正確に情報を処理し、膨大なデータを分析する能力に優れています。一方で、人間は創造力や直感、共感力といったAIには再現しきれない知的特性を持っています。今後は、AIが人間の創造性を補完し合うことで、これまでにない価値やアイデアが創出されていくと考えられています。
たとえば、AIが設計や分析を担い、人間が創造や構想をリードすることで、革新的な製品やサービスが生まれる可能性があります。
具体的には、
- 顧客分析の高度化:AIによる顧客データ分析により、顧客のニーズをより深く理解し、的確なマーケティング戦略を立案することができます。
- 商品開発の効率化: AIを活用した設計支援ツールにより、開発期間の短縮とコスト削減を実現することができます。
- 顧客サービスの向上: AIチャットボットや音声認識技術により、24時間365日の顧客サポートを提供することができます。
などの活用が考えられています。
【労働環境の変革】新たな仕事と価値観の創造
AIの導入により、単純作業や定型業務は自動化され、人間はより創造的かつ専門性の高い仕事にシフトしていくと予測されます。これに伴い、新たな職種や価値観も生まれてきています。
- AIシステムの開発・運用
- AI倫理の専門家
- AIを活用したコンサルタント
などが誕生すると予想されています。
また、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIによるタスク管理の普及により、事務作業の効率化や業務負担の軽減も進んでいます。テレワークの推進にもつながり、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方が拡大しています。AIは働き方だけでなく、「働く意味」や「生き甲斐」といった人間の価値観にも変化をもたらしています。
具体的には、
- RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入: RPAにより、事務作業を自動化し、従業員の負担を軽減することができます。
- AIによるタスク管理: AIを活用したタスク管理ツールにより、チーム全体の効率化を図ることができます。
- テレワークの推進: AIの活用により、場所や時間に縛られない働き方が可能になります。
などが、AIによる働き方の変革として挙げられます。
【社会課題の解決】持続可能な社会の実現
AIは、医療、教育、環境、福祉などさまざまな社会課題の解決にも貢献しています。
- 環境対策:気象データ解析や資源管理などを通じて、持続可能な開発を支援
- 個別最適化教育:AIが学習履歴に応じて一人ひとりに合った教材や指導法を提示
- 医療支援:AIがCTやMRI画像を解析し、病気の早期発見や診断精度の向上に寄与
少子高齢化への対応
高齢化が進む日本では、AI搭載の介護ロボットや育児支援ロボットが実用化されつつあります。これらは家事・介護の負担軽減、見守り機能の強化、育児の効率化などに貢献し、限られた人手でも安心して暮らせる社会の構築に寄与します。また、AIによる遠隔医療の実現は、医療資源が不足している地域でも質の高い診療を提供できる可能性を広げています。
製造業の変革
製造現場では、AIを活用したスマートファクトリー化が進んでいます。具体的には以下のような変化が起こっています。
- 製造工程の自動化と最適化
- 品質検査の高度化(画像認識)
- 生産計画のリアルタイム制御
- 予知保全によるメンテナンス効率化
こうした変化は、生産性向上だけでなく、地球環境への負荷軽減にもつながる持続可能な産業の形成にも貢献しています。
シンギュラリティとは【AIが人間を超える「技術的特異点」】
【シンギュラリティ時代の「生き甲斐」とは?】
AI技術の進化に伴い、近年「シンギュラリティ」という言葉が注目を集めています。シンギュラリティとは、「技術的特異点」と訳され、AIの知能が人間の知能を凌駕し、自己改善を繰り返すことで、爆発的に知性が高まり、人類の文明を根底から変えてしまう可能性のある特異点のことを指します。
シンギュラリティ後の社会
AIの進化がさらに加速する未来において、「シンギュラリティ(技術的特異点)」という概念が注目されています。これは、AIが人間の知能を超え、自己進化を繰り返すことで、社会全体の構造を一変させる可能性があるという考え方です。
想定される変化には以下のようなものがあります。
- 経済活動の再編:創造性を重視する職業が主流に
- 政治・倫理観の変容:AIによる意思決定や法律判断が台頭する可能性
- 仕事の再定義:人間の役割が「管理者」「創造者」「調整者」へと移行
一方で、AIの暴走、人間の価値低下、格差の拡大といったリスクも指摘されています。こうした危険性に備え、AIと人間が共存できる倫理的枠組みや法制度、教育の整備が不可欠です。
これからの時代に大切なこと
AIは人類にとって強力なパートナーとなり得ますが、それを「どう使うか」は私たち次第です。創造性・倫理・共感といった人間ならではの力を活かしつつ、AIと共に未来を築くためには、正しい理解と備えが重要です。技術だけでなく、人としての在り方を見つめ直すことが、これからのAI時代を生き抜く鍵となります。
AIが作る未来の生活・将来性
AI技術の進化は、私たちの生活をより便利で快適なものへと変えつつあります。今後は、医療・教育・家庭・仕事などあらゆる場面でAIが活用され、暮らし方そのものが大きく変化していくと考えられます。ここでは、AIがもたらす未来の生活や将来性についてわかりやすく解説します。
スマートホームがもたらす暮らしの変化
AIを搭載したスマートホームは、家庭のあらゆる設備を自動制御し、快適で効率的な暮らしを実現します。たとえば、気温や湿度に応じてエアコンや加湿器が自動で調整されたり、住人の生活パターンに合わせて照明や家電が最適化されたりします。
冷蔵庫が食材の在庫を管理してレシピを提案する、掃除ロボットが部屋の状況に応じて清掃ルートを変えるなど、家事の負担も軽減されます。高齢者や子育て世帯の見守り機能も搭載されるようになり、安全面でも大きな効果を発揮します。
今後は住宅の標準機能として広がる可能性も高く、日常生活の質を大きく高める技術として注目されています。
AIと医療の融合で進む個別化医療
医療分野におけるAIの活用は、診断・治療・予防のすべてにおいて飛躍的な進歩をもたらします。特に注目されているのが、患者一人ひとりの体質や病歴、遺伝情報に基づいた「個別化医療」です。AIは膨大な医療データを学習し、症状のパターンや病気の進行を解析。医師の判断を補助しながら、最適な治療法や薬剤を提案することができます。
また、遠隔診療やバーチャル問診などにより、医療格差の是正や医師不足地域の支援にも役立ちます。将来的には、病気の予兆をAIが検知して早期介入する「予防医療」が当たり前になると期待されています。
教育の現場に広がるAI活用
教育分野でもAIの導入が進みつつあり、学習者一人ひとりに合わせた「個別最適化学習」が可能になっています。AIは、生徒の成績や解答傾向、理解度などのデータを分析し、それぞれの習熟度に合った教材や課題を自動で提案。これにより、得意な分野はより深く学び、苦手な分野は重点的に復習することができます。
また、先生の業務負担を軽減する機能も強化されており、採点や出席管理、指導計画の作成などをAIが支援します。さらに、言語翻訳や音声認識を活用すれば、外国人児童や障害のある子どもへの教育支援も容易になります。教育の質と効率を大きく高める可能性を秘めた技術です。
働き方を変えるAIアシスタント
AIは、働き方にも大きな変革をもたらします。特に「AIアシスタント」の活用により、ビジネスシーンでの事務処理やスケジュール管理、資料作成、会議内容の要約などが効率化され、人間はよりクリエイティブな業務に集中できるようになります。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)との併用で、定型業務の多くを自動化することも可能です。
さらに、AIによるタスク管理やプロジェクト進行の最適化により、チーム全体の生産性が向上し、リモートワークやフレックスタイム制とも相性が良くなります。AIは「人にしかできない仕事」に集中できる環境を整える強力なパートナーとなっています。
自動運転が変える交通と暮らし
自動運転技術の進化は、私たちの移動手段や生活スタイルを根本から変える可能性を秘めています。AIが車両の周囲を常時モニタリングし、障害物や信号、歩行者などを認識・判断することで、安全かつ効率的な運転が可能になります。高齢者や障がいのある人でも自由に移動できるようになり、移動のバリアフリー化が進むと期待されています。
また、事故の削減や渋滞緩和、物流の自動化など、社会全体への恩恵も大きい分野です。将来的には、車を所有せず、必要なときに呼び出すモビリティサービス(MaaS)が主流となり、都市の在り方や暮らし方そのものが変わるかもしれません。
AIの進化が社会にもたらす影響
AIの技術が驚くべきスピードで進化している中、その発展がどのように私たちの社会に影響を及ぼすのでしょうか。
ビジネスへのインパクト
【人工知能技術の発展と社会への影響】
AI技術の進化により、生成AIがホワイトカラーの業務※を効率化し、生産性や付加価値を向上させることが期待されています。企業はDX(デジタルトランスフォーメーション)※を推進するために、経営者のコミットメントや社内体制整備、顧客価値の差別化などが重要となります。
【関連記事】デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?企業の取り組み事例やSDGsとの関係を解説
デジタル人材育成とスキルへの影響
【デジタル社会の産業構造・就業構造変⾰による横断的課題】
AIの普及により、人材育成と求められるスキルの変化に注目が集まっています。今後は従来のスキルだけでなく、AIを使うスキルやクリエイティブなスキルが求められるようになる可能性が高いと考えられます。個人や組織は、環境の変化に柔軟に対応し、学び続ける姿勢が重要となります。
AIの発展でなくなる仕事・新たに生まれる仕事
AIの進化は、今後の働き方に大きな変化をもたらすことが予想されています。AIの発展によって、なくなる仕事と新たに生まれる仕事について具体的に見てみましょう。
なくなる仕事
単純作業やルーチン業務:AIの導入により、単純かつ繰り返し行われる作業やルーチン業務が自動化される可能性があります。例えば、工場の組み立てラインやデータ入力などがAIによって効率化され、これらの仕事に従事していた人々が減少するかもしれません。
一部の専門職:AIの進化により、特定の専門職の一部が影響を受ける可能性があります。例えば、簿記や会計業務など、AIが高度な計算や分析を行うことで、一部の専門家の業務範囲が変化するかもしれません。
新たに生まれる仕事
AIエンジニア:AI技術の普及に伴い、AIを開発・運用するエンジニアの需要が増加すると予想されます。AIエンジニアは、機械学習やディープラーニングなどの専門知識を持ち、AIシステムの開発や改善に携わることが期待されます。
データサイエンティスト:AIの発展により、データの解析や予測に特化したデータサイエンティストの需要が高まるでしょう。データサイエンティストは、ビッグデータを分析し、ビジネス上の価値を創出する役割を果たします。
クリエイティブ職:AIを活用したコンテンツ制作や、デザインなどのAIに関連するクリエイティブ職が新たに創出されると予想されています。
DX推進に必要な人材・スキル
AI時代には、マインド・スタンスやデジタルリテラシーが重要となります。今後は、言語を使った対話や問いを立てる力、仮説を立てる力などが必要とされるでしょう。
また、政策面でもAIに関連するデジタルスキルの普及が進められています。これから先、社会人として、
- デジタルリテラシー
- プログラミングスキル
- コミュニケーション能力
- 問題解決能力
といったスキルを身につけることが一層重要になると言えます。
AIの発展は、社会構造や働き方に大きな変化をもたらす可能性があります。未来を見据え、AIと共に成長していくために、常に学び続ける姿勢を持ちましょう。*5)
AI社会で生き抜くために!これからの時代に大切なこと
【AI社会で求められるスキル】

先述のとおり、AIの発展は私たちの働き方や生活様式を大きく変化させつつあります。それでは、AI社会の中で自分らしく生きていくためには、どのような対策を講じるべきでしょうか。重要なポイントを見ていきましょう。
倫理観と社会貢献の意識の重要性
【AIガイドラインによる基本理念】
AIを活用する際には、倫理観と社会貢献の意識が欠かせません。AIの利用によるリスクや課題に対して適切な対策を講じるとともに、多様性や公正な競争環境の維持に努めましょう。
イノベーションへの積極的な参加
AI社会では、イノベーションが重要な要素となります。新たなビジネスやサービスの創出、持続的な経済成長の実現に向けて、積極的にイノベーションに参加しましょう。AI社会の到来に向けて、個人や企業が積極的に国際化や産学官連携、オープンイノベーションを推進することは重要です。
デジタルリテラシーの向上
AI社会の到来により、
- ネット上の情報が溢れ、何が正しいのか判断できなくなる
- 個人情報が簡単に漏洩する危険性が高まる
- AIによって仕事が奪われる可能性が高まる
などが懸念されています。デジタルリテラシーの向上のために、
- インターネットの使い方を学ぶ
- SNSの使い方に注意する
- セキュリティ対策を徹底する
- AIについて学ぶ
といった行動を実践しましょう。大切なので何度も繰り返しますが、デジタル・AI社会において、自分の安全を確保するデジタルリテラシーのスキルは必須です。
データリテラシーを身につける
AIの活用には、データの収集、分析、活用といった一連のプロセスが不可欠です。そのため、データを適切に扱う能力であるデータリテラシーの向上が重要となります。
データの特性を理解し、データから洞察を導き出す力を身につける必要があります。単にデータを扱うだけでなく、データを読み解き、自ら課題を発見し、解決策を提案できる人材が求められるでしょう。
AIとの協調
AIは人間の仕事の一部を代替していく一方で、人間とAIが協調して新たな価値を生み出す可能性も秘めています。医療分野での人間医師とAIの連携がその一例です。
AIの特性を理解し、人間の創造性や判断力と組み合わせることで、より高度な仕事を生み出すことができます。AIと人間がお互いの長所を生かし合うことが重要です。
変化に柔軟に適応する能力の養成
AIの発展に伴い、さまざまな職業が自動化の影響を受けることが予想されます。そのような状況においては、定型的な業務スキルだけでなく、状況の変化に柔軟に対応できる能力が重要となります。
- 課題発見力(問題の本質を見抜く力、多角的な視点、発想力)
- 論理的思考力(倫理的な思考、客観的な視点、表現力)
- 創造性(独創的なアイデア、柔軟な発想、行動力)
といった、いわゆる「人間らしいスキル」を身につけることが求められます。企業は従業員のスキル向上を支援し、個人は絶え間ない学習を続けることが肝心です。*6)
AI社会(人工知能との未来)に関するよくある質問
AI技術の進化とともに、私たちの社会や働き方、価値観は大きく変わりつつあります。その一方で、「AIに仕事を奪われるのでは?」「AIとどう共存すればいいのか?」といった疑問や不安の声も少なくありません。ここでは、人工知能と共に生きるこれからの社会について、よくある質問を取り上げ、わかりやすく解説します。
AI(人工知能)の昔と今の違いはある?
昔のAIは、ルールベースや単純な計算による「決められた処理」を行うものでした。例えば、チェスの対局プログラムや簡易的なチャットボットなど、人間が設定した条件に従って動くもので、柔軟性はほとんどありませんでした。
しかし現在のAIは、ディープラーニングをはじめとする機械学習技術により、自ら学習しパターンを見つけることが可能です。画像認識や自然言語処理など、高度で複雑なタスクも実現できるようになり、人間に近い判断力を持つAIが実用化されています。
AIに仕事を奪われるのではないかと心配です。どう考えればいい?
確かに、AIによって自動化が進むことで、単純作業や定型業務の一部は減少する可能性があります。しかしその一方で、新たな仕事や役割も生まれてきます。AIの開発・運用・倫理管理など、AI時代ならではの職種も登場しています。
また、AIはあくまで「ツール」であり、人間の判断や創造性を補完する存在です。大切なのは「AIに取って代わられる」のではなく、「AIを活用して自分の能力を高める」という視点を持つことです。変化を恐れず、新しいスキルを身につけていく姿勢が重要です。
AIと人間は今後どのように共存していくの?
AIと人間は、役割を分担しながら共存していくことが理想です。AIは、膨大な情報を高速・正確に処理することに長けていますが、人間が持つ直感・共感・創造力までは再現できません。
そのため、AIは事務処理やデータ分析を担い、人間は企画立案や対人関係など、感情や判断が必要な分野を担当するような「協働」が重要になります。また、AIに頼りきらず、その判断を理解・管理できる人間の存在が今後ますます求められます。社会全体として、技術と人間らしさを両立させる価値観の醸成が鍵となります。
AIに感情や創造性はあるの?将来持つようになる?
現在のAIは、言語や画像を用いて詩や絵を生成したり、人間らしい会話を行ったりすることができますが、それはあくまで「パターンの組み合わせ」による模倣であり、本当の意味での感情や創造性を持っているわけではありません。しかし今後、AIの進化が進むことで、人間に極めて近いふるまいをするAIが登場する可能性はあります。
ただし、それでもAIは「意識」や「自我」を持たないとされており、創造性の根本にある意図や価値判断は、依然として人間の役割とされています。AIの能力を見極めながら、人間がどう関わるかが重要です。
AI時代に生きるために、私たちが身につけるべき力とは?
AI時代においては、「AIにはできない力」を身につけることが大切です。たとえば、創造力・共感力・倫理的判断・コミュニケーション能力など、人間特有の価値を活かすスキルが注目されています。
また、AIを理解し、正しく使いこなす「リテラシー」も欠かせません。プログラミングやデータ活用の基礎知識を持つことは、将来のキャリアに大きな武器となります。変化の激しい時代だからこそ、「学び続ける力」や「柔軟な思考」を持ち、AIと共に成長していく姿勢が、より良い未来につながります。
AI社会の発展はSDGsの達成にも影響する?
【第4次産業⾰命※技術によって実現される社会ニーズ】
AIの技術革新やデータ活用により、従来では対応しきれなかった社会的・構造的課題に対応する可能性が広がっています。このようなAI社会の発展はSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも大きな影響を与えると期待されています。
特に大きな影響を与えると考えられるSDGs目標を確認していきましょう。
【関連記事】第四次産業革命とは?特徴や生活に及ぼす影響、課題をわかりやすく解説
SDGs目標3:すべての人に健康と福祉を
- AIを活用した医療診断や治療、介護支援などのサービスの発展
- AIによる健康管理や予防医療の普及
- 国民全体の健康寿命の延伸
SDGs目標4:質の高い教育をみんなに
- AIを活用した個別指導や学習支援システムの開発による、個々の能力やニーズに合わせた効率的な学習
- AIによるオンライン教育の普及による、場所や時間に制限されない教育
SDGs目標5:ジェンダー平等を実現しよう
- AIを活用したジェンダーバイアスの検出や是正、女性起業家支援など、男女平等社会の実現
- AIによる家事や育児の負担軽減による、女性の社会進出
SDGs目標7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに
- AIを活用したエネルギー需要予測や省エネ対策
- 再生可能エネルギーの効率化
- スマートグリッドの構築による安定した電力供給と省エネルギーの実現
SDGs目標9:産業と技術革新の基盤を作ろう
- AIを活用した新たなビジネスモデルの創出
- 生産性の向上
- 労働市場の適応支援
- A地方創生や地域活性化
- 地域格差の是正
SDGs目標11:住み続けられるまちづくりを
- AIを活用した交通システム、エネルギー管理システム、防災システムなどの構築
- AIを活用した災害予測、避難誘導、被災者支援など、災害被害の軽減
- AIを活用した観光振興、地域産業の活性化、高齢者支援など、地方の活性化
SDGs目標13:気候変動に具体的な対策を
- AIを活用したエネルギー効率化、再生可能エネルギーの導入促進、省エネルギー技術の開発など、温室効果ガスの排出量削減
- AIを活用した気候変動予測モデルの開発による、より正確な気候変動予測
- AIを活用した気候変動リスク分析、適応策の立案、防災・減災対策
SDGs目標16:平和と公正をすべての人に
- AIを活用した犯罪予測、犯罪捜査、犯罪予防など、犯罪の減少に貢献
- AIを活用した裁判資料分析、判決予測、法令調査など、司法制度を効率化
AIを活用した人権侵害の監視、人権教育、差別解消など、人権擁護の強化
SDGs目標17:パートナーシップで目標を達成しよう
- AIを活用した国際的な研究開発、情報共有、政策協調などによる、国際協力強化
- AIを活用した教育支援、医療支援、経済支援など、開発途上国の発展への貢献
- AIを活用した環境問題解決、貧困撲滅、感染症対策など、グローバルな課題解決
このように、AI社会の発展は、SDGsの達成に大きく貢献することが期待されています。しかし、AI社会の発展には、多くの課題も存在します。
例えば、
- AIの開発や利用における倫理的な問題
- 富や情報へのアクセス格差が拡大する可能性
- 一部の仕事がなくなる可能性
などが挙げられます。これらの課題を解決するために、国際的な枠組みやガイドラインを策定し、AIを適切に活用していくことも重要です。*7)
>>各目標に関する詳しい記事はこちらから
まとめ
AIが発展する社会では、人間とAIの共生がますます重要となります。AIがルーチンな作業を担当し、人間は創造性や問題解決能力を活かすことで、より価値のある業務に集中できるようになるでしょう。いずれは、人間らしい感性や倫理観を持つAIの開発も進み、社会全体がより持続可能で人間中心の未来を築くことが期待されます。
個人がAI社会を生き抜くためのスキルを身につけるためには、先述の通り、スキルの向上やデジタルリテラシーの習得、イノベーションへの参加、倫理観と社会貢献の意識が重要です。
そのためには、
- 読書:さまざまなジャンルの本を読むことで、知識を増やし、思考力を鍛える
- アウトプット:自分の考えやアイデアを文章や言葉で表現することで、論理的思考力や表現力を高める
- 経験:さまざまな経験をすることで、視野を広げ、柔軟な発想力を養う
- コミュニケーション:多くの人と交流することで、多様な視点に触れる
などに、積極的に取り組むことが有効と言われています。また、さまざまな分野の新しい情報に興味を持って知識を広げ続けることも大切です。
企業はこれからのAI社会を見据え、従業員の能力開発への投資が、これから一層重要になると考えられます。
ここまで、AIの発展が私たちの生活やビジネスにどのような影響を及ぼすのかを探ってきました。AIは生産性の向上や新たな付加価値の創出、教育の質の向上など、さまざまな分野で大きな変革をもたらそうとしています。
AI社会の到来は避けられない事実と言えます。しかし、それは決して脅威ではありません。私たちが主体的に学び、AIとともに新しい価値を生み出していくことで、希望に満ちた未来を実現できる可能性が高まります。
この急速な変化の波に乗り遅れることなく、新しい社会のビジョンを明確に持ち、行動に移すことが大切です。より良い未来とAIとの共存を目指して、常に学び、新しいことへの挑戦を続けましょう!
<参考・引用文献>
*1)AIの歴史
国土交通省『コラム 「人工知能(AI)」の歴史』
ChatAIとは?仕組みやメリット・デメリット、種類、今後の課題も
総務省『第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI~ネットワークとデータが創造する新たな価値~』
日本経済新聞『生成AIブーム1年、過去10年間の歴史と熱狂の行方』(2023年12月)
ディープラーニングとは?仕組みやメリット・デメリットと実用例の紹介
総務省『第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0』
*2)AIの現状
NTT東日本『【2024年最新】AI(人工知能)技術の活用事例を紹介!概要や歴史、メリットも解説』
TECHBLITZ『AIはなぜ今転換点を迎えたのか?2024年の生成AIトレンドは? シリコンバレー拠点のAI専門キャピタリストが解説』(2024年3月)
*3)2024年時点でのAIの市場規模
愛知工科大学『メタバース総研の記事に情報メディア学科 山高研究室が掲載されました』(2023年11月)
総務省『第2部 基本データと政策動向 第6節 IoT・ICT利活用の推進』(2021年)
メタバース総研『【2024年最新】国内外の生成AIの市場規模は?今後の展望も解説』(2024年4月)
日経XTECH『市場回復の期待を担うAIパソコン、「2027年に全出荷の6割」予想も』(2024年3月)
NRI『生成AIの展望〜生成AIの可能性と変わる未来〜』(2024年2月)
METI Journal『AIが主戦場!日本発「標準」を世界に広める経産省の戦略とは』(2024年2月)
日経XTECH『KDDIが生成AI開発向け計算基盤を整備、経産省の助成を受け4年で1000億円投資』(2024年4月)
*4)AIの今後の展望
NEDO『人とAIが協力し合う未来へ 次のAIが見えてきた』
総務省『イノベーションと技術的特異点(テクノロジカル・シンギュラリティ)』(2018年7月)
経済産業省『「AIガイドライン」案 概要』(2024年1月)
総務省『第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI~ネットワークとデータが創造する新たな価値~』
NTT技術ジャーナル『期待高まる国産生成AI(前編)──AIの歴史的変遷と大規模言語モデルの動向』
経済産業省『「次世代デジタルインフラの構築」プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画(改定案)の概要』(2022年9月)
日経XTECH『総務省と経産省が「AI事業者ガイドライン」公開、パブコメを反映』(2024年4月)
METI Journal『己と向き合え、世界とつながれ』(2018年7月)
*5)AIの発展が社会にもたらす影響
内閣府『人工知能技術の発展と社会への影響』
経済産業省『「新産業構造ビジョン」⼀⼈ひとりの、世界の課題を解決する⽇本の未来』(2017年5月)
NEC『AI時代における社会ビジョン ~人々の働き方、生き方、倫理のあり方~』
総務省『第3節 人工知能(AI)の進化が雇用等に与える影響』
HITACHI『【第2回】AIがもたらす未来の仕事』
東洋大学『AI普及で雇用はどうなる?専門家に聞いた、なくなる仕事・増える仕事』(2020年3月)
経済産業省『「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方」 を取りまとめました』(2023年8月)
*6)AI社会で生き抜くための対策
経済産業省『「新産業構造ビジョン」⼀⼈ひとりの、世界の課題を解決する⽇本の未来』(2017年5月)
経済産業省『「AIガイドライン」案 概要』(2024年1月)
*7)AI社会の発展はSDGsの達成にも影響する?
第四次産業革命とは?特徴や生活に及ぼす影響、課題をわかりやすく解説
経済産業省『「新産業構造ビジョン」⼀⼈ひとりの、世界の課題を解決する⽇本の未来』(2017年5月)
農林水産省『SDGs(持続可能な開発目標)17の目標と169のターゲット』
この記事を書いた人

松本 淳和 ライター
生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。
生物多様性、生物の循環、人々の暮らしを守りたい生物学研究室所属の博物館職員。正しい選択のための確実な情報を提供します。趣味は植物の栽培と生き物の飼育。無駄のない快適な生活を追求。